2022/3/23(水)東京せんがわ劇場にて大柴広己(おおしばひろき)自身初となる劇場での、そして東京では2年ぶりとなる有観客ワンマンライブが開催された。会場は昨今の事情もあり、ソーシャルディスタンスを取った形で行われ、客席は全国各地から集まったと思われるファンで埋め尽くされた。
会場に入ると、ステージには一本のマイクスタンドと、使い込まれた風態のメインギター赤と黒のTRUTH TN-35が二本、そして譜面台のみというシンプルなステージに、客席は今か今かと開演を待つ期待感に包まれる。
19時15分を少し過ぎた頃、ほぼオンタイムで始まったこの日。劇場らしく開演のブザーの音ともにオーヴァーサイズの黒いシャツと黒いパンツで大柴本人が登場。拍手の中、おもむろに赤い方のギターを携え、歌い出したオープニング・ナンバーは「ヒロイン」
「ギター弾いて歌えば、いつでも世界は変えられる」というフレーズが印象的な希望のバラードだ。声は出せないという中、静かながらグッと客席の温度が上がっていくのがわかる。
「2年ぶりの東京、ただいま!」のシャウトとともにかき鳴らしたギターでなだれ込むように「光失えどその先へ」が奏でられる。昨年リリースになった「光失えどその先へ」からのリードナンバーで、叩きつけるような16ビートのファンクナンバーだ。
音源では聴けども、ライブで聴くのは初めてのリスナーも多かったのだろう。皆、体を揺らしながら聴いている姿が印象的だった。劇場のステージの特性もあり、足を踏み鳴らすと「ダン!」と音がすることが面白かったのか、時折飛んだり跳ねたりコミカルな動きをしながら客席との距離を縮めていく大柴。

「ライブ楽しい!!みなさん本当にお待たせしてすみませんでした」と間髪入れずミドルテンポのバラード「誰かのために働けば」が続く。平日開催ということもあり、仕事帰りに立ち寄ったファンも多かったこの夜に、この曲は実に心地よく響いてくる。
客席を見渡しながら「パッと見、東京なのに地方から来てる人が多いんじゃね?」と笑いを取り、歌うのは春の代表曲「さくら、きせき」東京と桜と出会いをテーマに制作されたこの曲は2013年にリリースされた「BANK」のカップリング曲で、すでに完売したとされていたこのアルバムが、最近本人の使われていない自宅の押入れから出てきたというニュースもあり、2022年の東京の春を真新しく彩ってゆく。
ギターを赤から黒に交換し、今日の衣装について選んだ理由を「昨年末(12/29梅田TRAD)のライブで、奮発して買ったヴィヴィアン・ウエストウッドの紫の水玉シャツを着たら、ライブの最後で汗まみれになって、まるで自分全身血まみれのように見えてお客さんに心配されたので、今回は黒にしました」と語る。「でもシャツが黒だし、ギターも黒だし、背景も黒だと本当に真っ黒けになるので最初は赤いギターを使って体裁を整えました(笑)」のMCからの本人曰く、ロックンロール・ナンバー?の新曲「ねこのうた」そして秋田在住のロックバンド「鴉」のボーカリスト「近野淳一」に提供したという東京と地方をテーマにした楽曲「遥(はるか)」を歌い上げ、ライブは中盤戦に突入。
「それだけで僕は」の印象的なアルペジオ・フレーズが爪弾かれた瞬間。会場の空気がガラッと変わる。
先程までのどこかホンワカとした流れからピンと張り詰めた凛とした空気に色を変え、楽曲が進むにつれ、フェイクやアドリブを交えた巧みなボーカルで会場の空気感を自由自在にコントロールしてゆく。
カポタストを荒々しくガッと移動させ、かき鳴らされる「ランドリー」はかつての恋人との葛藤を描いたアップテンポのギター・ロック。太いギターのサウンドと右手のビートがあいまって、この日はギター一本の弾き語りにも変わらず、まるで背景にバンドが鳴っているようだった。
「今日はありがとうございます」と今日集まったファンに感謝の意を述べたのちに歌われる代表曲「さよならミッドナイト」ここで客席との距離感がほぼゼロになる。
大柴広己のライブは本当に10代から70代くらいまでと客層が幅広い、この日も10代から親子連れ、仕事帰りと思われる男性など。様々な層のファンがライブを楽しんでいた。それはきっと歌われている「ことば」がおおよそ誰でも理解できる「確かな大衆性」のもとで成立しているからに他ならない。
「言葉よりお金より大切なのはぬくもり」
マイクをオフにして歌われた楽曲「ぬくもり」のシンプルな歌詞にその全てが集約されている気がした。
「みなさんにお知らせがあります。ニューアルバムが完成しました!!」
客席から拍手が沸く中、ギターをジャランと鳴らして歌い始めた「愛にもどる」は2021年に書かれたみずみずしい新曲。「あいにもどる」にはいろんな意味が込められている。聞き手に想像の余地を与えるということが音楽の一番の楽しみであると考える筆者。これでもかと言わんばかりの転調を繰り返す大サビから手拍子を交え、ピッチを上げ、ぐんぐんと客席を歌の世界に引き込んでゆく大柴。

ギターのイントロが鳴った瞬間それとわかる「NORMAL」はアマチュア時代の19歳の時に書かれたものだ。今だから言えることがたくさんあると謳われるこのメッセージは20年後の今だからこそより心に響く。コールアンドレスポンスができないオーディエンスは手拍子を頭の上に掲げて応え、新たな時代のレスポンスとして昇華させ、ライヴをより新しいものに変えていったのがハイライトであった。
ビル・ウィザースのJust the Two of Us (ジャスト・ザ・トゥー・オブ・アス)コード進行のイントロで始まる「妄想疾患■ガール」で巧みなボイス・トランペットを披露し、盛り上がりは最高潮へ。その後の随一のジャジイ・ナンバー「コノユビトマレ」でその伏線を回収。ひとりメンバー紹介のコーナーでは「トランペット〜」「トロンボーン〜」「チューバ〜」で元関西人にツッコミたくなる客席をおおいに沸かせ、見事客席もそれに応えてみせた。
世界は依然なかなか落ち着きを見せることはないが、本人が「今一番好きな歌」と語る新曲「ベーコンエピ」は、今夜、よりリスナーの心に響いた気がした。オフマイク気味に訥々と語られるその「押し付けがましくない日常の歌」は誰の人生にもきっと一度や二度登場したであろう普遍的な「愛」について歌われており、今の時代を生きる全ての人の心に、必ずや刺さるはずだ。
「SNSに自分の本当の気持ちは呟かない。全ては歌の中に込めてある。」と語り、透明感のあるイントロで歌い出す「ソングトラベル」11年前の震災ののちに制作されたこの曲。いわゆるメジャーなヒット曲ではないが、当時、この曲を必要としている人の心を間違いなく打った。「ベーコンエピ」と「ソングトラベル」というこの二曲が歌っている平和と幸福論は、決してこの先も誰かを傷つけ、虐げることはないだろう。

「茶色い液体の歌を歌います!」というコールと共に「部屋と味噌汁とぬくもりと君と」で後半戦がスタート。待ってましたと言わんばかりの軽快かつ重厚な手拍子が会場に鳴り響く。ラララーのサイレント・シンガロングののち「35過ぎて音楽やるやつみんな宇宙人」になだれ込むが肝心のタイトルを思いっきり噛み、思わず仕切り直し。会場からドッと笑いが漏れた。
最後から二番目の曲です。聴いてください。とアカペラで歌われたのは「テレパシー」だ。生音が本当によく響くのは劇場ならでは。目の前で歌われているかのような(歌っているのだが)錯覚を得ることができる贅沢な一曲となった。
本日本編最後の曲となった「東京」はそのままハンドクラップとアカペラで今夜だけのアレンジで披露。東京という街で生き、多摩川の夕焼けをバックにMVを撮影されたこの曲は今夜を締めくくるのに十分な曲に思えた。
「集まってくれてありがとうございました!」と最後ラララーと手拍子とともに歌いながら舞台袖に戻っていく大柴。
くすくすと笑うオーディエンスは当然それを許さない。
手拍子がアンコールを求める手拍子に変わっていく。
再びギターを手に取り「いっせーのーで」が歌われる。
これは兵庫在住のシンガーソングライター「TOZY」と共作されたナンバーで「僕らは明日も歌を歌っていく」と歌われるポジティブなメッセージのラヴ・ポップ・ソングだ。この曲を演奏している時にギターの弦がブチッと切れる。すぐさまギターを手放し、観客に手拍子を煽りながらギターを持ち替え、何事もなかったかのように演奏をスタートする。この辺りは年間150本のライヴ・キャリアのなせる技であるといえよう。
「最後弦が切れたんで、もう一曲だけ歌います」とステージの最先端に立ち、生声で「どうせ同じ涙なら」を高らかに歌い上げ、自身初の「劇場」そして「激情」の2時間にも及ぶワンマンライブは幕を閉じた。
ライブ中に語られたニューアルバムのリリースも楽しみな上、初のシングルの先行配信の情報もアナウンスされた。
ギター一本で観客を最後まで魅了できる稀有(けう)なシンガーソングライター。
今後も大柴広己のミュージック・シーンに注目してゆくべきだ。

大柴広己 (おおしばひろき)
1982 年8月27日生まれ。大阪府枚方市出身。
印象的な天然パーマ、 ハット、あごひげが特徴。
ニックネームは「もじゃ」
2006年アルバム「ミニスカート」でデビュー。
ギターと旅行鞄を携え、一年のうちの1/3を旅の中で過ごす「旅するシンガーソングライター」
卓越したギター、誰にも似ていない歌声。
思わずドキッとさせられるセンセーショナルな歌詞。
ニコニコ動画においても「もじゃ」という名前で活動しており、
代表曲「さよならミッドナイト」「ドナーソング」「彼の彼女」「聖槍爆裂ボーイ」などの関連楽曲再生回数は5000万回をゆうに超え、中でも「聖槍爆裂ボーイ」はオリコンウィークリーチャートで最高位2位を記録。
近年では、ディレクター、プロデューサーとしての手腕を発揮し、ミュージシャンによるレーベル「ZOOLOGICAL」を主宰し多数の作品をリリース。大阪城野外音楽堂や、Zepp Diver Cityでのシンガーソングライターによるマイク一本の弾き語りフェス「SSW」や、上海や台湾などのアジア圏で弾き語りフェス「GUITARS」を主催するほか、CM作家としての顔。作詞家として5人組ダンスボーカルユニット「Da-iCE」のシングル曲「FAKESHOW」に参加し、オリコンウィークリーチャートで3位を記録するなど自身の活動に平行して、マルチな活動を行っている。
■2022/3/23(水)東京せんがわ劇場
「大柴広己ワンマンライブ〜たったひとりっきりで歌うinトーキョー〜」
1.ヒロイン
2.光失えどその先へ
3.誰かのために働けば
4.さくら、きせき
5.ねこのうた
6.遥(はるか)
7.それだけで僕は
8.さよならミッドナイト
9.ぬくもり
10.愛にもどる
11.NORMAL
12.ベーコンエピ
13.妄想疾患■ガール
14.ソングトラベル
15.部屋と味噌汁とぬくもりと君と
16.コノユビトマレ
17.35過ぎて音楽やるやつみんな宇宙人
18.テレパシー
19.東京
En
20.いっせーのーで
21.どうせ同じ涙なら












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